防災の日に考える2

リサエネおじさんのつぶやき

「防災」から「軽災」へ

力で抗うハードの限界を超え、土地・技術・行動で猛威を受け流す個人の適応戦略

激甚化する気候変動と、日本列島が抱える宿命的な地殻活動。私たちはこれまで、有史のデータをもとに「想定」を立て、巨額の税金を投じて高い堤防や堅牢な建造物を築く「列島強靭化(ハード防護)」に頼ってきました。

しかし、近年相次ぐ「想定外」の事態や、巨大災害が引き起こした破局的事故が突きつけた現実は、人間が作った建造物であっても100%の安全保障は不可能であるという事実です。老朽化する公共インフラと人口減少に直面する今、行政依存やハード偏重の「防災」は限界を迎えています。

今求められているのは、自然の猛威をゼロに抑え込もうとする無理な「防災」ではなく、被害を最小限に抑えて大切な命と暮らしを守る「軽災(けいさい)」への個人レベルでの意識改革です。本稿では、個人の住まいと行動において「軽災」を実践するための4つの具体的アプローチを提示します。

1. 居住地の成り立ちを知る:ハザードマップと「土地の記憶」の解読

軽災の第一歩は、自分が住む土地の本来の姿を知ることにあります。

自然が何万、何千年かけて形作った地形には、それぞれ固有の性質があります。そこが古くからの頑丈な「台地」なのか、かつて「沼地や水田」であった場所を埋め立てた軟弱地盤なのか、河川の氾濫で形成された「扇状地」「河岸段丘」「沖積地」なのか。土地の記憶を無視した居住は、大地震の際の液状化や激しい揺れ、水害時の浸水として跳ね返ってきます。

自治体が発行するハザードマップは、そうした土地の成り立ちとリスクをわかりやすく可視化してくれた非常に有効なツールです。これから新たに住まいを構える方や引越しを検討している方は、利便性や価格だけでなく、その土地の根本的な成り立ちを深掘りし、潜在的なリスクを解読する視点が不可欠となります。

2. 直ぐに出来る「現実的な軽災設計」

ハードによる完全な安全を求めて過剰な設備投資を行うことは、個人の資金面から見ても一般的ではありません。特別な高額設備に頼らずとも、住まいの配置や構造の工夫次第で、既存の住まいでも十分に被害を受け流す「軽災」を実現できます。

  • 「上階シフト」による生活拠点と重要資産の防衛(洪水・土石流対策)土砂災害や浸水のリスクが懸念される地域では、2階建て以上の建物において生活の中心機能や重要な非常用備蓄品、家電・貴重品などをできる限り「上の階」へ集約配置します。1階が浸水被害を受けた場合でも、生活拠点や備蓄を上層に確保しておくことで「在宅避難」を維持し、孤立時の生存率を飛躍的に高めることが可能です。
  • 「効果的な構造補強」(地震対策)最新の免震システム等を導入しなくとも、筋交い(すじかい)の増設や構造用合板による壁補強、金物による接合部の強化を行うことで、建物の耐震性能・粘り強さは格段に向上します。建築基準法が求める最低限の基準にとどまらず、コストを抑えながら「倒壊しない・歪まない」構造強化を図るアプローチが重要です。
  • 「自産自消のインフラ」確保 太陽光発電+蓄電池。雨水等を溜める雨水タンク。可能であれば浄水器など、公共インフラに頼らない「自産自消」を実現。太陽光発電+蓄電池については、温室効果ガス削減に向けて行政から補助金が出る可能性が有ります。

3. 災害率の高い危険区域からの「スマートな撤退」

巨大な津波や大規模な土砂崩れ、頻発する河川氾濫に対し、多額の税金を投入して防波堤や擁壁を際限なく積み上げ続けることには限界があります。激しい土石流や水圧の巨大なエネルギーの前に、頑丈な要塞で抗い続けることはできません。(ネパール・中国の大規模土石流の映像が物語っています)

自分の身を守る最も確実な軽災手段は、「自然の猛威の通り道からの撤退」です。

災害発生リスクが極めて高いエリアからは居住地を段階的(長期的・世代間)に安全な高台や微高地へ移転(スマートな居住再配置)させる。自然と張り合うのではなく、危険域からそっと身を引く決断こそが、個人と家族に真の安全をもたらします。

※経済的、心情的、文化的様々なハードルは有ります。あくまでも「軽災」の観点からです

4. 与えられる気象情報だけに頼らない「自律的行動」

近代的な気象予測や警報システムは飛躍的に発達しましたが、「警報が出ていないから大丈夫」「行政の避難指示を待つ」という受動的な姿勢は、急変する気象や前兆のない突発的災害において致命傷となります。

数値データや行政からのアナウンスだけに依存するのではなく、前兆となる自然現象(雨の降り方、川の濁り、風のにおい、地鳴りなど)に自ら違和感を覚え、危険を察知したら指示を待たずに自律的に退避行動を起こす文化を身に付ける必要があります。

【次回予告(第3回):感覚を呼び覚ます「動物を見習う軽災」】

自然の力を「いなす」土地選びや現実的な住まいの補強に加え、外出先、旅行先での被災に対し、最終的に自らの命を守るのは私たち人間の「察知能力」です。

気象データがなかった時代から、人々は予兆を察知し、難を逃れてきました。最終回となる第3回では、テクノロジーや行政への過度な依存から脱却し、「動物を見習う五感を活かした軽災」について深く考察します。

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