「風化される自然災害の恐ろしさ」
〜日本列島の宿命と、先史・歴史が語る未曾有の大惨事〜
熊本地震、千葉豪雨、北陸豪雨、被災された方々、その他の地域でも多くの自然災害が起こりました。心よりお見舞い申し上げます。
本日、9月1日は「防災の日」です。1923年の関東大震災から100年余りが経過した現在、私たちは日常の中で、過去の惨事をどこか「歴史上の出来事」として風化させてしまいがちです。しかし、日本列島は数千〜数百年のサイクルで数万人の命と社会基盤を奪う巨大災害に繰り返し見舞われてきました。
9月1日の節目に際し、本コラム(全3回連載)では防災の在り方を根本から見つめ直します。第1回となる今回は、地球科学的な日本列島の成り立ちから、先史時代の痕跡、そして歴史上の大惨事を振り返り、風化の危うさと防災の原点を再確認します。
1. なぜ日本で災害は繰り返されるのか:地球科学が明かす「列島の宿命」
日本列島にもたらす、四季折々の美しさや湧き出る温泉、そして牙をむく地震や火山噴火。それらはすべて、生きて動く地球がもたらす表裏一体の姿なのです。
(1)大陸からの分離と日本海の誕生
今から約2,000万〜1,500万年前(地球誕生は46億年前)、かつてユーラシア大陸の東端に位置していた地殻が、地球内部の激しい変動によって引き裂かれ、大陸から分離しました。その切り開かれた隙間に海水が流れ込んで形成されたのが「日本海」です。
(2)世界でも類を見ない「4つのプレートの十字路」
日本列島は、北米プレート、太平洋プレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレートという4つの巨大なプレートが押し合い、沈み込み合う世界屈指の超高圧力地帯の上に位置しています。太平洋プレートやフィリピン海プレートの沈み込みは、広域な巨大地震を定期的に引き起こすだけでなく、地下深部でマグマを発生させ、日本列島を世界有数の「火山列島」へと変貌させました。
(3)圧縮力による「日本アルプス」の隆起と急峻な地形
東西からの猛烈なプレート圧縮力により、地殻が著しく隆起・屈曲し、飛騨・木曽・赤石の「日本アルプス」をはじめとする急峻な山脈が形成されました。この険しい地形は、豊かな水資源や美しい景観をもたらす一方で、ひとたび集中豪雨や地震が起きれば、大規模な山体崩壊や土石流、洪水を引き起こすリスクを常に抱えています。
2. 記録以前の警告:地層と遺跡に残る「先史時代の破局噴火・大地震」
文字記録が存在しない有史以前(先史時代)においても、地層調査や考古学研究により、人類の生活圏を根底から壊滅させた超巨大災害の痕跡が発見されています。
先史時代の破局噴火・大地震(地層や遺跡に残る痕跡)
- 阿蘇4噴火(約9万年前・破局噴火)阿蘇カルデラ史上最大級の噴火です。高温の火砕流が九州のほぼ全域を覆い、海を越えて山口県にまで到達しました。日本全国に降灰(Aso-4火山灰)をもたらし、広域の生態系に壊滅的な打撃を与えた痕跡が残されています。
- 姶良カルデラ噴火(約3万年前・破局噴火)現在の錦江湾北部を形成した超巨大噴火です。噴出された火山灰(AT)は日本列島全域を覆いました。当時の旧石器人が使用していた石器群が火山灰層の直下から出土することから、広範囲で人生活動が一時途絶したと考えられています。
- 鬼界カルデラ噴火(約7,300年前・破局噴火)鹿児島県沖で発生した破局噴火です。巨大な火砕流が海を渡って九州南部に到達しました。アカホヤ火山灰が東日本にまで飛散し、南九州で栄えていた高度な縄文文化(塞ノ神式土器文化など)を壊滅・途絶させた痕跡が遺跡から確認されています。
- 弥生・縄文期の超巨大津波・山体崩壊(約2,000〜3,000年前・巨大地震)高知県土佐市や三重県沿岸の地層から、弥生時代の巨大津波堆積物が検出されています。また、約3,000年前には富士山東麓で大山体崩壊(御殿場泥流)が発生し、その後の発掘調査によって縄文人の生活痕が埋没していたことが立証されています。
3. 歴史が語る数万人・数千人規模の惨事:地震・火山・台風
有史以降、文献に明記されただけでも、日本は数万人〜数千人規模の犠牲者を出す大災害を幾度となく経験してきました。
(1)地震:突発的に社会構造を破壊する最大級の脅威
- 明応地震(1498年): 南海トラフ沿いの推定M8.2〜8.4の超巨大地震。巨大津波が東海道沿岸を襲い、浜名湖が海と接続。犠牲者は約3万〜4万人に達したと伝えられる。
- 宝永地震(1707年): 東海・東南海・南海トラフが同時連動した巨大地震。直後に富士山の宝永大噴火を誘発し、家屋全壊や津波で死者約2万人以上を及ぼした。
- 関東大震災(1923年・大正12年9月1日): M7.9の近代都市型巨大地震。「防災の日」の起源。昼食時の出火により大規模な火災旋風が発生し、全死者・行方不明者約10万5,000人のうち8割以上が火災により犠牲となった。
- 東日本大震災(2011年・平成23年): M9.0の国内観測史上最大の超巨大地震。巨大津波と原子力発電所事故が複合し、震災関連死含め約2万2,000人超の尊い命が失われた。
(2)火山噴火:長期的・次次的な広域被害(高潮・泥流・飢饉)
- 富士山 宝永大噴火(1707年): 宝永地震の49日後に発生。16日間にわたり大量の降灰をもたらし、江戸にも数センチ積もった。堆積した火山灰が酒匂川等を閉塞させて翌年以降に大規模泥流・土砂氾濫が頻発。広大な農地が壊滅し、長期的飢饉により数万人規模の生活基盤が失われた。
- 天明の浅間山噴火(1783年): 噴火と山体崩壊による土石なだれで麓の集落が埋没。さらに大量の降灰が日光を遮り天候不順を引き起こし、「天明の大飢饉」を深刻化させ全国で数万人〜数拾万人の犠牲を出した。
- 島原大変肥後迷惑(1792年): 日本史上最悪の火山惨事。雲仙岳の活動に伴う地動で眉山が山体崩壊を起こし、大量の土砂が有明海へ流入。巨大津波が対岸を襲い、死者・行方不明者は約15,000人に上った。
(3)台風:事前予測が可能でありながら広域を呑み込む風水害
- 室戸台風(1934年): 風速60m/s以上の暴風と巨大高潮により木造校舎が多数倒壊。死者・行方不明者3,036人。
- 枕崎台風(1945年): 終戦直後の混乱期に直撃。原爆投下直後の広島等で大規模土石流が発生し、死者・行方不明者3,756人。
- 伊勢湾台風(1959年): 潮岬上陸後、伊勢湾沿岸に猛烈な高潮を引き起こし、ゼロメートル地帯の堤防が破堤。死者・行方不明者5,098人に達し、現在の「災害対策基本法」制定の契機となった。
地球の営みや歴史の周期から見れば、南海トラフ巨大地震、首都直下地震、あるいは富士山噴火や超大型台風の到来は、「いつか起きるかもしれない夢物語」ではなく、「明日起きてもおかしくない現実のリスク」です。地球温暖化により台風の大きさや勢力も増すと言われています。地球の営みを考えると私たち人類の無力さがよく分かります。それでも大切な生命財産を守る工夫は必要です。次回「防災」をどの様に捉えるか考えてみたいと思います。
